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今までに一番難しかった修理

日々、車の修理をしている訳ですが、最も難しいのが、故障箇所を見つけることです。
どうしても原因が判らず苦労することも多々あります。

今までで、一番「はまった」修理は、ATミッションの修理です。

シボレーのATミッションでしたが、症状は、走行中にアクセルペダルを踏んでキックダウンさせると、ギヤ抜けしてしまい、一瞬ニュートラルに入った状態になった後、ギヤが入ると言った具合でした。
マニュアルでシフトダウンすれば、ギヤ抜けもなく、クラッチが滑っている様子もありませんでした。

おそらく、ミッション本体ではなく、コントロールバルブのシフトソレノイドなど、
制御系の不具合ではないかと思いました。

結局、長く乗ると言うことでしたので、ミッションを降ろして、完全にオーバーホールする事にしました。

分解してみると、ドライブプレート(摩擦板)の磨耗もなく、クラッチ類の異常もありませんでした。
コントロールバルブのバルブの動きも問題ありませんでした。
やはり、シフトソレノイドが原因ではないかと思い、直接通電してみると、作動はしていましたが、交換する事にしました。

あと、バルブボディーに油圧スイッチプレートがあり、これがどうも怪しいという事で、調べてみると、一箇所スイッチがon、offしない箇所があり、これも交換する事にしました。
やはりこのスイッチプレートが原因のようで、新しいスイッチプレートでテストしてみると、on、offするようになりました。

その他、ガスケット類や、摩擦板なども交換して、ミッションを載せました。

走行テストしてみると、ギヤ抜けもなく、変速もスムーズになり、いたって調子よくなりましたので、納車しました。

しかし、1週間ほどで、お客様から「ミッションがおかしい」と連絡があり、車が戻ってきました。

「以前のギヤ抜けの症状もなく、調子は良いのだが、リバースにシフトしても、5秒くらいたたないと車が動かない」という事でした。

テストしてみると、リバースにシフトしても、ギヤが入っておらず、暫くすると「カツン」とシフトショックがあり、車が動き出す状態で、ギヤが入ってしまえば、その後は滑るような事もありませんが、リバースに入れる度に、5秒位は動きません。

これは、コントロールバルブ内のどこかが詰まり気味になっているかもしれないと思い、再びコントロールバルブを外して、完全に分解掃除しましたが、全く詰まっている様子も、動きの悪いバルブもありませんでした。
一様もう一度組んで、テストしましたが、案の定、同じ状態でした。

そうなると、本体系にも、詰まり気味の箇所があるかもしれないので、ミッションを降ろして、もう一度完全に分解して、各部をチェックしながら、細心の注意を払いながら、組みなおしました。
しかし、これと言った不具合箇所は見当たりませんでした。
そして、車に載せて、テストしてみると、無情にも、同じ状態でした。

元々、リバースには異常がなかったので、オーバーホール後におかしくなったので、必ず原因があるわけですが、どうしても原因が見つける事が出来ませんでした。

そして、またミッションを降ろして、コントロールバルブを取り外して、なんとなく眺めていると、バルブボディーと本体の間に入るガスケットの一部に、「しわ」がよっているところがあるのに気づきました。
と言っても、5ミリ四方ほどの部分が、僅かにゆがんでいる程度で、良く見ないと分らないくらいのものです。
そのガスケットの裏側には、オイル穴があり、本来はガスケットに穴が開いていなければいけない部分ではないかと思い、他の部分も確認してみると、必ずしもオイル穴がある部分は、ガスケットにも穴が開いているという訳ではないようで、同じようにオイル穴をガスケットで塞いでしまっている箇所は、他にもたくさんありました。
古いガスケットがあれば確認できますが、すでに処分してしまっていますので確認できません。

よくよく「しわ」の部分を観察してみると、真ん中付近は僅かにひび割れしていました。
やはり油圧がかかって、薄いガスケットを突き破ったような感じに思えます。
この部分が原因であれば、リバースにシフトしても、ガスケットが油路を塞いでいるのですぐに圧力が上がらず、ガスケットの僅かなひびの間からオイルが通過するのに時間がかかってしまい、リバースクラッチが作用するのに時間が掛かると言う説明がつきます。

そこで、その部分のガスケットをカッターでカットしてしまいました。
そして、三度目のミッション搭載です。

ジャッキアップ状態のままテストしてみます。

恐る恐る、リバースにシフトすると、すぐに「カツン」とシフトショックがあり、タイムラグはめでたくなくなり修理完了です。

その時は、部品(ガスケット)が違っていたのだと思いましたが、
今思えば、コントロールバルブのセパレートプレート両面にガスケットが付くのですが、
同じに見えた、ガスケットが、実は僅かに違いがあり、位置を間違えて組み立ててしまっていたようです。

自分のちょっとした「ミス」によって、とんでもなく苦労させられてしまった訳ですが、
この「苦労」こそが「技術の向上」だと思っています。
はまれば、はまる程、いろんな原因の可能性を考えなくてはならなくなる訳で、
この事が技術の向上には最も大切なことではないでしょうか。

しかし、「ガスケットをカッターでカットして解決」なんて、とんでもない「大技」でした・・・

ATミッション